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奴隷制度は受験でも重要な内容
奴隷制度自体が受験で問われることはあまりありません。
今回の内容も、子どもの趣味から派生した話なので、ハッキリ言って直接的に受験には関わってきません。
しかし深堀りすることにより、歴史や人権といったところと絡んできます。
また学問としてではなく、人として知っておいて欲しい問題でもあります。
奴隷制度自体は重たい内容なので、子どもが興味を持った段階で聞かせてあげられるといい話題でしょう。
奴隷が自分を買うことはできるのか?
今回も子どもが気付いたライトノベルのおかしな話。
「自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム」というライトノベルで、奴隷の女の子が、
「このお金で私は自分を買うわ!」
といって机の上に金貨を山積みにする描写が出てきます。
これについて生徒が疑問に思い、質問してきました。
奴隷ってなに?価値は?
奴隷の記録は古代からあり、その多くは肉体労働でした。
一般的に想像されるような奴隷は実在しました。
しかし時代や場所にもよりますが、ローマでは高学歴奴隷というものが存在し、家庭教師や官僚、医師、会計といった頭脳労働にも従事しており、これらの奴隷は高値で売買されていました。
ローマ法大全では資産の評価基準が決められていて、そこには
- 子どもは金貨10枚
- 大人は20枚
- 技能を有する大人は30~60枚
と書かれています。
この当時の金貨は1円玉と同じくらいで、金含有量は4g程度。
時代によって含有量が異なるため一概に言えませんが、単純に金価格で換算すると、1枚で24,000円くらいという事になります。
もちろん今現在この金貨は貴重なため、プレミアがついて価格は高くなっていますが、単純に金の重さだけで価値を考えるのであれば、子どもの価格は24万円ぐらいだったことになります。
ちなみに奴隷は英語でslave(スレイブ)と言いますが、この語源はslav(スラブ)。
つまりスラブ人が奴隷の語源となっているのです。
教科書やテキストに出てくる奴隷の記述といえば、アフリカの奴隷貿易とアメリカの奴隷解放宣言あたり。
奴隷貿易では金100g程度だったということなので、重さだけで換算すると1人60万円。
リンカーンの奴隷解放宣言の時代の奴隷の価格は2000ドルにもなっていたということなので、ドルの基準になっていた銀の重さに換算すると約50kg。
これを現在の銀価格で換算すると約350万円となります。
日本の奴隷制って?
日本にも奴隷制はありました。
ただヨーロッパのような侵略の歴史は少ないため、大規模な人身売買が行われるような奴隷制にはなっていません。
記載が残っているもので最初の奴隷は弥生の時代で、後漢書東夷伝には
「倭国王(わのこくおう)が生口(奴隷)を献上した」
とあり、魏志倭人伝にも卑弥呼が婢(女奴隷)を侍らせていたという記述があります。
飛鳥時代に律令制度が入ってきたときには、公奴婢(くぬひ)と私奴婢(しぬひ)という身分は売買の対象とされた、とあります。
戦国時代には最も多くの奴隷がいたとされ、日本人奴隷として海外へ輸出されることもありました。
特にこれに絡んでいたのがイエズス会で、秀吉がバテレン追放令を出した要因とも言われています。
江戸時代には奴隷の身分制度は廃止されたものの、いわゆる「身売り」は黙認。
というのも、日本でいうところの奴隷は働かせるためのものという以外に、養える人のところに行って養ってもらうという意味もあったのです。
日本で人身売買を禁止するようになったのは1870年になってからです。
そして1948年に世界人権宣言が出され,奴隷制度及び奴隷売買は世界中で禁止しようという流れになりました。
奴隷の扱い
奴隷というとさぞかしひどい扱いを受けたのだろうという気がしますが、実はそうとも限りません。
たとえば先程のローマの奴隷ですと、奴隷の価値は当時の生活水準からすると高かったため、扱いも丁寧だったと言われています。
高級車を買うようなものですね。
そのため、頑張った奴隷にはお小遣いを与えることもあったといい、いわゆるサラリーマンのような生活だったと言われています。
もちろん資産価値として考えられていたからこのような扱いだったのであり、価値が低い奴隷の扱いは酷いものでした。
自分を買うことはできるの?
実はできました。
ローマ時代の奴隷に関しては、価格が決められており、財産を持つことが許されていたため、ある程度お金を貯めて、自分を買い取って自由になることができたのです。
最も給料をどれだけもらえるかは主人にかかっているので一概には言えませんが、早ければ数年で解放されることもあったといいます。
アメリカでも当初はそれが可能でしたが、いわゆる黒人奴隷の時代になると残虐行為が多発し、一切の自由が許されなくなりました。
ライトノベルの描写の検証
さて本題。
既にお話した通り、ありえなくはない、ということになります。
自分で自分を買う制度自体はありましたし、低賃金ながら給料ももらえたので、財産を作ることもできたんですね。
ところがその時代の取引価格に当てはめてみると、金貨60枚が最大。
ということは、机の上に山積みにするほどの金貨、というのは現実的ではないでしょう。
あくまで1描写を持ってとりあげるので厳密なことは言えませんが、あの金貨山積みの挿絵から見積もって、金貨は500枚くらいはあるかと。
置いてあった金貨の種類がハッキリしないものの、少なくともソリダス金貨ではないため、見た目と大きさからメープルリーフ金貨500枚として考えた場合、少なく見積もってもその価格は93,300,000円。
つまり約100億円という計算になります。
奴隷である少女が果たしでどうやってこのような大金を手に入れたのか。
仮に合法的に手に入れたものであるとするならば、奴隷をやめるよりも奴隷でいる方が待遇が良いのではないか。
自分を買う価格として、この価格は妥当なのか。
様々な疑問が出てきますが、ライトノベルなのでそこまで求めてはいけません(笑)
大切なのは、ライトノベルを題材として考えることです。
何が真実かは問題ではないのです。
現在の奴隷は?
最後に現在の奴隷について。
法律としては奴隷制を禁止してはいるものの、非合法な世界では未だに奴隷や人身売買が存在します。
最近ではイスラム過激派による人身売買、中国の人身売買といったものが問題になっています。
それによると100~200ドルで取引されているといい、現在のドル円の相場に換算すると約1~2万円という価格になります。
さらに価格も10歳未満が高く、年齢が上がる程安くなっていくといいます。
お気づきだとは思いますが、以前の奴隷の価格とは明らかに異なっているんですね。
奴隷の価格は歴史上豊かさや繁栄と共に上昇してきましたが、ここに来て人類史上最低なのではないかという価格で取引されていることになります。
そして以前は労働者としての価値を見出されていたのに対し、現在は強制労働、性奴隷、臓器売買といった物として扱う目的が多く、年齢が低い程しつけやすく扱いやすいということです。
奴隷制度はライトノベルでは定番の制度ですが、ファンタジーではなく、現実に存在する制度なのです。
しかももっと過酷な現実が。
日本は平和とは言われていますが、全く無関係なわけではありません。
子ども達には世界を正しく見る目を持ってもらいたいものですね。
「金貨山積みにして自分を買い戻すことはありうるの?」