サイフォン式コーヒーメーカーで学ばせるポイント
見せるだけで子どもの目は輝く
サイフォン式コーヒーメーカーをどこかで見たことがあるでしょう。
今は手軽に入れられる機械による抽出式、もしくは紙フィルターによるドリップ式が主流ですが、子どもからすると面白みが少ないもの。
それに対してサイフォン式コーヒーメーカーはフラスコっぽい丸いガラスにアルコールランプ。
水が上がったり下がったりと実験さながらな入れ方になるため子ども達の興味を引き立てます。
そして何よりこのコーヒーサイフォン。
中学受験、高校受験で必要な気象・化学の基本原理をほとんど説明できてしまうほど万能なツールなんですね。
後片付けが面倒、かつ場所を取るため現代には似合わないツールですが、受験を考えている子がいるご家庭なら、一度は子どもに入れ方を教えたい一品です。
⇒ 麻布中の入試で、このブログと同じ内容が出題されました!
今回も実際に塾生が実験した中で出た疑問、質問を基に解説しましょう。
危険性はしっかり教えること
まずアルコールランプをつける所からスタート。
最近は学校でもガスバーナーになっていることが多く、アルコールランプだけでも子どもたちはキャッキャします。
もちろん危険なのでふざけさせてはいけません。
中学受験を考えている子でそんな幼い子はいないとは思いますが、一応使う前に危険性は話しておいた方がいいでしょう。
サイフォンの原理とコーヒーを作る簡単な流れ
コーヒーサイフォンの下のフラスコに水を入れ、上に豆を入れておきます。
フラスコを温めると水が上昇し、豆と水が混ざり、コーヒーになります。
火を止めるとコーヒーがフィルターでろ過されて下へ降りてきます。
下にコーヒー、上に使い終わった豆が残る、という仕組みです。
ドリップ式とは違い、抽出時間がしっかりと取れること、豆全体からむらなく抽出できること、といったメリットがあります。
このドリップ式との違いについて考えさせるのもいいでしょう。
なお、サイフォンとはギリシャ語で「チューブ、管」という意味で、管を通して圧力差で液体を移動させる原理のことをサイフォンの原理いいます。
ランプカバーの下側に穴が開いているのはなぜ?
さて、このアルコールランプのカバーは下に穴が開いていて、上はガードされています。
これも気象の原理を考えられて作られているんですね。
アルコールランプは燃焼すると周りの空気が温められて上昇気流が発生します。
そこで下に穴をあけておくことで、新鮮な空気を下から取り入れているんですね。
横がガードされているのは風よけです。
この辺りはまさに気象で上昇気流が生じる原因の説明と同じです。
実際このアルコールランプの穴の原理を理解しただけで、高気圧、低気圧、温暖前線、寒冷前線、停滞前線、閉塞前線辺りの原理はあっさり説明できてしまいました。
なぜススが出ない?
フラスコ部分が綺麗なのは新品だからでも綺麗に洗ったからでもありません。
そもそもアルコールはススが出にくいのです。
ろうそくだとガラスに黒いすすが沢山つきますね。
なぜアルコールはすすがつかないのでしょうか。
まずこのススの正体。
これは炭素です。
炭素は燃えるときに酸素と結合して二酸化炭素になります。
つまり、すすが出るということは、酸素と結合できずに残った、不完全燃焼だったということです。
ではアルコールはなぜ不完全燃焼しにくいのでしょうか。
実はアルコールの分子にはすでに酸素が入っており、完全燃焼しやすいからなのです。
ろうそくだと炭化水素基(R)と呼ばれる炭素と水素が多数結合したものでできているため、空気中から酸素を持って来て結合させなければなりません。
そのため燃える速さに対して酸素の供給量が足りず、不完全燃焼を起こしてススが発生。
フラスコがすすで黒くなってしまいます。
小学生には難しい気がしますが、中学受験に出る内容なので、しっかり理解しておく方がいいでしょう。
中学生なら分子について扱っているので大丈夫なはず。
どうしてもわからなければ、餌とセットで預かったウサギを飼育するのと、ウサギだけ預かって、餌を自分で用意するのとの違いとでも説明すれば、大抵理解してくれます。
何で芯は減らないの?
アルコールランプの芯が燃えていると思っている子は少なくなく、なぜ芯が減らないのかと聞かれることがあります。
こういう疑問が出るのはいい傾向です。
バカにせずにちょっと考えさせてみましょう。
そもそも何が燃えているのか。
そう、燃えているのはアルコールです。
芯が焦げないのも、芯が焦げる前にアルコールが燃えてくれるからなのです。
もうちょっと詳しく説明しましょう。
最初に火をつけると、芯に染み込んだアルコールが気化し、燃えます。
すると芯はアルコールに漬けているため、すぐに気化した部分にアルコールが供給されます。
するとそのアルコールが気化して燃焼、また次のアルコールが供給される。
この繰り返しにより、芯が燃える前にアルコールが燃えていきます。
だから芯は燃えず、焦げないのです。
熱の伝導はコーヒーサイフォンに全て凝縮されている
熱の3つの伝わり方も確認しておきましょう。
中学受験、高校受験ともに必須の内容です。
- 伝導(熱が物を伝って伝わっていく温まり方)
- 対流(液体や気体といった流体が熱を運んでいく温まり方)
- 放射(赤外線により熱が空間中を伝わる温まり方)
よく大手の塾ではバラバラな例を用いて教えられますが、そんなことをしなくてもコーヒーサイフォンの原理を説明できるだけで、全て詰まっているのです。
伝導
まず伝導。
持ち手の部分を触れてみれば、熱源に近い程暖かいことがわかります。
わかりにくければ、スプーンをフラスコ部分に当ててみるか、出来上がったコーヒーに入れて熱の伝わり方を試してみればすぐにわかります。
対流
次に対流。
水の部分をよく見ると、揺らいで見えるのがわかると思います。
水が上昇してコーヒー豆と混ざった時にその動きを見ればはっきりわかるでしょう。
また、コーヒーサイフォンの上に手をかざすと、暖かい空気が上に上がってきているのがわかるはずです。
いずれも水や空気といった流体(形のないもの)が温まったときに膨張、周りよりも密度が小さくなったために上昇していきます。
これにより流れが生まれ、その流れによって熱が運ばれて伝わっていく。
この現象を対流といいます。
放射
最後に放射。
火に手を横から近づけてみて下さい。
火の上方が暖かいのは先程の対流によるものですが、火の横が暖かいのには違う説明が必要です。
この状態で、間に紙を差し入れてランプからの光をさえぎってみて下さい。
温かさがなくなりませんでしたか?
これはランプからの光が遮られたことによります。
よくわからなければ、透明な下敷きで遮ってみましょう。
温かさは変わらないはずです。
つまり、光が暖かさを伝えているということです。
これは光の中の成分の1つである、赤外線が熱を伝えているからです。
ストーブや炭火焼きで遠赤外線という言葉を聞いたことがある子も多いでしょう。
赤外線というのは、熱を伝える重要な光なのです。
水の沸騰は中学受験の必須単元
水は沸騰するときに、小さな泡が先に出てきて、次第に大きな泡が出てくるようになります。
この小さな泡は水に溶けた空気で、温かくなるにつれて水中から追い出されたもの。
大きな泡は水蒸気によるもので、熱エネルギーにより、液体が気体へ変化するために起こります。
これは鍋で料理するときでもわかるはず。
もちろんコーヒーサイフォンでも同じように見ることができます。
また、水蒸気は目に見えないため、湯気は少し離れたところで水蒸気が冷やされて水になった時に見えるというのも、コーヒーサイフォンの上部で確認することができます。
なぜ沸騰すると水が上昇するの?
沸騰して水蒸気が発生すると、フラスコ内の気圧が上昇します。
すると水蒸気が水面を押し下げて、水はフィルターを通って上部のコーヒー豆が入れてある部分へ上昇していきます。
圧力が高い低いというのはこれで大抵説明できてしまいます。
火を消すと下へ吸い込まれていくのはなぜ?
火を消すとフラスコ内の温度が下がり、水蒸気が水へ戻っていきます。
するとフラスコ内が減圧し、真空になってしまうため,上部の水を吸い込んできます。
もしこの時、上部を塞いで完全に密閉してしまえば真空を作ることができます。
最もコーヒーサイフォンは真空を作るためのものではないので、割れる可能性があります。
実際にはやらずに原理に留めて下さい。
コーヒー豆が下に落ちてこないのはなぜ?
間に挟んだフィルターで豆がこしとられるためです。
これはろ過の原理と一緒ですね。
なお、この時に残ったコーヒー豆と普通にドリップで入れた後のコーヒー豆を比べても違いがハッキリとわかります。
圧力差を利用して一気に引き込んでいるので、残ったカスが圧縮されて固まります。
ドリップ式では固まっていないのでグズグズになります。
また、同じ豆を使っても、サイフォンとドリップとでは味や香りも変わってきます。
カフェインを考えると子どもにコーヒーを飲ませる訳にはいかないので、大人が飲んで感想を言ってあげるしかありませんが。
なお、ファイでは塾生たちが入れたコーヒーを、切替やアシスタントがおいしく頂いております。
子供は面白がってコーヒーを作るので、作りたびにこの原理が再現できます。
実際に試してみて実感することができるので、カリカリと黒板を書き写す必要がないんですね。
しかも実感が伴っているので、何度もやらなくてもすぐに覚えてくれます。
天気の授業なんてろくにやっていませんが、サイフォンコーヒーのつくり方と原理を理解できている子は、気象の基本原理が理解できているので、後はテスト用にちょこっと知識を入れてあげればすぐに問題が解けるようになります。
「私が何度教えても理解できなかったのに…」
というお母さんの言葉をよく頂きますが、原理が理解できていないものは何度教えても点になりません。
実感の伴う理解は一発で頭に入るのです。
豆の種類や焙煎法は体系化の宝庫!
こだわりのある方ならご存知でしょう。
豆の種類や焙煎、入れ方にはかなり細かな分類があり、それらを体系化することで理科の実験的な思考力が身に付けられます。
ファイの塾生も実際にやってみたのですが、結構面白がって取り組みます。
コーヒー淹れても飲めないんですけどね(笑)
豆の種類
子どもでもよく豆の種類としては、モカ、キリマンジェロ、ブルーマウンテン、ブラジルあたりがあげられるでしょう。
これらの豆ごとの違いを子どもに飲ませて確認させるわけにはいきませんが、親が飲んで感想を言うという形にすると、親子で楽しく学べます。
そしてコーヒー豆の産地は入試でもよく出るので、地図と合わせて調べておくといいでしょう。
簡単に特徴をまとめておくと以下のようになります。
- モカ:エチオピア。甘味とコク。
- キリマンジェロ:タンザニア。酸味が強い。
- ブルーマウンテン:ジャマイカ。一番バランスが取れていると言われる。
- ブラジル:ブラジル。ブレンドによく使われる。
- コナ:ハワイ。強い酸味と甘い香り。
- コロンビア:コロンビア。強い苦みと豊かな甘み。
ここで大切なのは、場所により味が異なるということ。
それに着目して地図上に書かせていくだけでも発見があって面白いですよ!
焙煎の種類
子どもはそもそも焙煎を知らないので、一から説明する必要があります。
簡単に言えば、コーヒー豆の酸化ですね。
元々コーヒーはコーヒーノキの実、コーヒーチェリーから作りますが、これは赤い実で、中身は白なんですね。
これを加熱して酸化させていくことで、色や成分が変わっていきます。
さすがに焙煎まで見る機会はそうそうないでしょうが、こだわりの喫茶店やカフェでは、焙煎の様子を見られるところもあります。
焙煎の機械はもちろん、黒く変わっていく様子は面白く、香りも強くて子どもは結構面白がりますよ。
飲めないけど(笑)
一応自宅でもできるので、簡単にまとめておきましょう。
ロースト(焙煎)時間が
- 短い:茶色っぽい。酸味が強い。
- 長い:黒っぽい。苦みが増す。
ちなみに焙煎のことを英語ではロースト、茶葉を焙煎することを焙じる(ほうじる)と言います。
ローストチキンやほうじ茶でお馴染みなので、子どももすぐに意味を理解してくれます。
豆の挽き方
どうやって豆を挽くか、どこまで細かく挽くかによってもコーヒーの味は変わってきます。
細かくなるまで挽くと、水に触れる表面積が増えるため、抽出しやすくなるのです。
ちなみに私はエスプレッソが大好きなのですが、これはデミタスカップと呼ばれるちっちゃなカップにすこーしだけコーヒーを入れたもの。
水が少ないので、凝縮されたコーヒーになります。
さて、エスプレッソに向いている豆はどれくらい挽いたものでしょうか。
水が少ないということは、表面積を稼いで抽出させなければいけないため、しっかりと挽いて細かくした豆を使いますね。
こんな感じで様々な原理がつながっていくのです。
なお、この豆を挽く機械がまた面白い。
子どもがやりたがるんですね。
挽くスピードによって摩擦熱が発生し、それが成分に影響を与えるらしいのですが、正直私はそこまでわかりませんでした(^^;
しかし挽くという作業はやってみてもいいでしょう。
ただし危ないので絶対に保護者同伴で行って下さいね。
コーヒーの淹れ方
コーヒーの淹れ方にもいくつか種類と特徴があります。
いずれも子どもは大好きなので、どれも一度は試させてみたい所です。
これも簡単にまとめておきましょう。
- ペーパードリップ式:家庭で一番良く見る入れ方。突き詰めるとバリスタのテクニックのように様々な注ぎ方がある。
- サイフォン式:スッキリして、香りが立ちやすい。
- ネルドリップ式:油が抽出しやすい。
- フレンチプレス式:味が安定しやすい。絶対子どもが押したがる(笑)
アメリカンコーヒーというのは、いわゆる薄いコーヒーです。
ペーパードリップ式はお湯を注ぐ量で薄くできるため、アメリカンにもできますね。
ペーパードリップはお湯の注ぎ方で味が結構変わるので、子どもに試させて見ると面白いですよ。
おすすめのサイフォン
ブログの読者さんからオススメはある?というご質問を頂いたので、ちょこっと紹介しておきます。
撮影の際に使用したサイフォンはこちら。
残念ながら、販売終了となってしまいました。
しかしもっとリーズナブルな価格で新しいタイプが出ました。
ごちゃごちゃした機能はなく、つまみや取手も大きく子どもでも扱いやすいですね。
そしてカッコいいとそれだけで子どものテンションが上がる(笑)
ハリオは有名なメーカーで付属品も充実しているため、仮に壊れてしまってもその部分だけ買って交換できるのも特徴です。
安いメーカーのもあるのですが、フラスコが割れると一式買いなおしになってしまうことも…
子どもに試させることを考えると、やはりデザインや価格よりも失敗した時のリスクを考えたいものですね。
麻布中で出題された問題
麻布中でブログと同じ内容が出題!
なんと2021年の麻布中の入試問題で、コーヒーを題材にした問題が出題されました!
しかもこのブログの内容そっくりそのまま(笑)
全文だと長いので、一部分だけ紹介しましょう。
問1 量が多くても全体をまんべんなく焙煎できる。
問2 ア
問4 熱が生じるため、苦みが強くなり、酸味が弱くなる。
問5 コーヒー豆に触れずに通過してしまう水の量が増えるため、薄くなる。
問8 極細挽き
問9 図は省略(水は一番下、真ん中に粉、一番上にコーヒーが出来てたまる。)
ブログ内で解説していることばかりなので、ここでの解説は割愛します。
ここでは問題文を割愛していますが、その中に問題を解くために必要なしっかりと書かれています。
コーヒーの淹れ方を知らなくても、それを読めばわかるでしょう。
しかしやはりやったことがあって問題を見た子は、覚えていなくても、解きやすくなるものです。
難関校ではこのように身近なことを題材とすることが多いため、経験は大切にしてあげたいところですね。
1つの経験から受験程度のことは十分学べる
さて、サイフォンコーヒー、作って見たくなりましたか?(笑)
ゆとりある大人の象徴ですものね。
忙しい日々を考えると勿体ない気がしますが、これ1つで子どもが気象を理解できるのであれば安いものです。
経験に勝る知識はありません。
そして子どもが作ってくれるようになれば、大人は待っているだけでコーヒーが出てきてカフェ気分ww
まぁそれはさておき、今回はコーヒーサイフォンで気象を学べるという実例を紹介しましたが,身近なものから学べる受験に通じるネタは、あなたが思っている以上にかなり多いのです。
ただ気付いていないだけ。
実際難関校の入試では、このブログの題材と同じものがよく出ていますからね。
テキストに書かれていることは確かに代表的かつ無難な例ですが、それだけではないのです。
そしてそんな代表例よりも、子どもにとっては身近なものの方が頭に入りやすいものです。
受験のテキストに縛られず、身近なものから学べる視点を養ってあげて下さい。
ファイに長く通っている子はその辺が上手で、ろくに入試問題や練習もしていないのに、難関や中堅どころに合格していってしまうのはこのためです。
もし今の塾でうまくいっていないと感じているのであれば、ファイへご連絡下さい。
今までとは全く異なる、本当の勉強の世界で楽しみながら受験に挑みましょう(^^)