元号は狙われる
新元号「令和」が発表されましたね。
菅義偉(すがよしひで)官房長官(額を掲げた人),安倍晋三総理大臣からも説明がありましたが,ここで子どもと話がしやすいようにまとめておきたいと思います。
まず出典は「万葉集(まんようしゅう)」という歌集。
この中の「梅花歌三十二首」の説明部分にある文,
「于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香」
の「令」と「和」を持ってきて元号としました。「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」という意味を込められています。記録が残っている限りでは中国の古典に由来した元号ばかりでしたから,日本の古典に由来する元号は初めてというのもポイントですね。
さて万葉集というのは国語や歴史でも登場してくる重要な歌集の1つですから押さえておいた方がいいでしょう。そこで万葉集に関する説明も付け加えておきます。
万葉集というのは全20巻からなる歌集で,奈良時代(759年頃)に作られた日本最古の歌集と言われています。当時の日本にはまだひらがなやカタカナがなく,日本語に中国語の漢字を当てはめて文章を書いていました。そのため漢文のようになっています。
例えば,「山」は日本語では「やま」と読みますが,中国語では「シャン」と言います。そこで音読みとして「サン」,訓読みで「やま」と読むことにしたのです。そしてさらに「レ点」「一二点」という工夫をして,日本語として漢文を読めるようにしたのです。この万葉集の和歌は万葉仮名と言われる漢字の音だけを拾って文字にしたものを使っており,全て漢字で書かれているのです。後にこの万葉仮名が崩れていってひらがなが誕生します。
そこで先程の漢文を日本語に直すと次のようになります。
「于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香」
「初春の令月にして 気淑く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は珮後の香を薫す」
・令月(れいげつ)
・気淑く(きよく)
・風和ぎ(かぜやわらぎ)
・鏡前(きょうぜん)
・披き(ひらき)
・珮後(はいご)
・香を薫す(こうをかおらす)
「初春の良き月の日 空気はさわやかで風も和(なご)やか 梅は鏡の前女性がつけている白粉(おしろい)のように白く咲き 蘭は女性が身にまとっている香りのように薫らせている」
といった意味になります。が,誰がこの序文を書いたのかはわかっていません。福岡県の大宰府(だざいふ)にあった大伴旅人(おおとものたびと)の家で開かれた梅花宴(ばいかえん)という宴会で詠まれた歌を集めた部分の序文(最初の説明部分)に書かれた文の一部です。
万葉集で有名な歌人(教科書に出てくる歌人)を何人か見てみましょう。
・天智天皇(てんじてんのう)
百人一首「秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ」
藤原鎌足と共に大化の改新で蘇我氏を滅ぼした1人。
・藤原鎌足(ふじわらのかまたり)
もとは中臣鎌足(なかとみのかまたり)と言い,大化の改新で蘇我氏を滅ぼした1人。藤原氏の始祖。現在まで続く佐藤や内藤といった「藤」が入る苗字は鎌足に由来する。
・天武天皇(てんむてんのう)
大海人皇子(おおあまのおうじ)。天智天皇の弟。壬申の乱で大友皇子(おおとものおうじ)に勝利。のちの持統天皇が妻。古事記と日本書紀の編纂(へんさん)を指示した人物。初めて「日本」を国号としたと言われる。
・持統天皇(じとうてんのう)
百人一首「春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」
天武天皇の妻(皇后)で女帝。
・山上憶良(やまのうえのおくら)
貧窮問答歌(ひんきゅうもんどうか)が有名。
・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
百人一首「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」
・山部赤人(やまべのあかひと)
百人一首「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」
・雄略天皇(ゆうりゃくてんのう)
ワカタケル大王の名で有名。埼玉県の稲荷山古墳で出土した「獲加多支鹵大王」が雄略天皇を指していると考えられている。
・大伴旅人(おおとものたびと)
家持の父。梅花宴が開かれた家の持ち主。
・大伴家持(おおとものやかもち)
百人一首「かささぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける」
万葉集は大伴家持が編纂に大きく関わっている。
・舒明天皇(じょめいてんのう)
推古天皇の死後に蘇我蝦夷らに支持されて即位。
・舎人親王(とねりしんのう)
天武天皇の子(皇子)。日本書紀の編纂を指示。
・額田王(ぬかだのおおきみ)
恋多き女性で情熱的な和歌を書くことで有名。天武天皇と天智天皇に愛されたと言われている。
なお,
「令」の漢字の書き方がパソコンと学校で習った漢字が違うけどどっちが正しいの?
「令」の字は2種類あるの?
といった質問がありましたが,以前書いた記事がありますのでそちらをご覧ください。
ちなみに元号は一世一元の制というルールが明治維新のときに作られており,天皇の在位中は元号を変えないことになっています。今回は5月1日に新天皇が即位するため,元号も新しくなります。PHIでも1人,4月から元号がすぐ変わると思っている子がいましたが,5月1日からです(笑)そして現在の天皇は125代目で,新天皇は126代目となります。
このように元号だけとっても教科書や受験に出てくるネタを広くカバーできます。大切なのは何を題材にしてどこまで広げられるか,です。ここまで大きく広げられなくても構いませんが,1つでも2つでも広げられそうな話題があれば,ぜひその世界を子どもにも見せてあげて下さい(^^)/
コメントを残す