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エビングハウスの忘却曲線の真実
教育システムの不都合な真実と裏話
さて、記憶の話となるとよく出されるエビングハウスの忘却曲線ですが、ほとんどの塾が間違った説明をしているのです。
しかしもっともらしく聞こえるので、それが当たり前のように浸透してしまいました。
例えばこんな感じのことを聞いたことはありませんか?
- 復習は早いうちにした方がいい
- 定期的に何度も繰り返して覚えた方がいい
- 回数を重ねれば記憶は強化される
これらが全てデタラメだとは言いませんが、これらは正しいとも言えないのです。
復習は早くする必要がないときもありますし、何度も繰り返す必要がないときもあります。
回数を重ねても覚えられないものは覚えられません。
ではなぜこれらが今の親世代、そのまた親世代が当たり前のように信じてきてしまっているのでしょうか。
塾業界の全盛期に、いかにも学校教育よりも効率的なように見せるために、これらに信憑性を持たせようとして用いられたのがエビングハウスの忘却曲線だったのです。
塾業界がエビングハウスの忘却曲線をどう使ってきたかというと、こんな感じです。
- 記憶は徐々に失われていくので、復習をすぐにすることが大切。そのため、うちの塾のテキストは復習がしやすいように一日単位で構成されており、その日に復習するものがすぐにわかるようになっています。
- 記憶は時間が経つと忘れてしまうため、定期的に思い出せるようにカリキュラムを作っています。
- 暗記はがむしゃらにやればいいわけではなく、どのタイミングでどう記憶するかが大切です。
これらにエビングハウスの忘却曲線が加わると、いかにもそれっぽく聞こえてしまいます。
これが信じられて、そういうものだと思ってきているのが今の親世代なのです。
よくよく考えてみると、そんな風に刷り込まれてきた記憶がありませんか?
エビングハウスが調べていたのは何?
エビングハウスが調べていたものは記憶量ではなく、節約率というものです。
彼は実際の世界に使われている言語では知識量や経験の差から記憶にも差が出てしまうと考え、無意味な実在しない単語をいくつか作りました。
tob,gex,jor, nuk,sabといった実在しない単語です。
この単語を覚えてもらい、ある時間ごとにもう一度覚えなおしてもらうという実験をしました。
例えばこんな感じです。
tobという単語を覚えてもらうと、10分かかりました。
それを1時間後に覚えなおしてもらうと約6分かかりました。
つまり、1時間後にもう一度覚えなおした時には4分節約できた事になるので、節約率は4/10≒40%
こんな感じでどれだけ節約できるかと計測していった結果、
- 20分後:節約率が58%
- 1時間後:節約率が44%
- 1日後 :節約率が34%
- 1週間後:節約率が23%
- 1ヶ月後:節約率が21%
となったのです。
そしてこの結果から分かった事は、記憶の忘却は1日以内に急激に起き、それ以降は急激な忘却は起こらないというものです。
エビングハウスは記憶量の話しなんてしていないのです。
なぜ節約率が記憶量に置き換わった?
ではなぜ塾業界が間違って使う記憶量の話になってしまったのでしょうか?
もちろんそう解釈した方が塾として説得材料が増えて使いやすかったというのもありますが、実はエビングハウスの実験結果自体も不確定要素が多すぎて、どう解釈していいかわからず、人によって解釈が分かれれしまったから、という事情もあるのです。
例えばjorという単語。
「これって炊飯ジャーのジャーのこと?」と考える人が出てくると、その途端この単語は無意味な単語ではなくなります。
実験では無意味な単語であることが前提となっているため、単語に意味が加わってしまうと正しい結果とはいえなくなるのです。
また、無意味な単語の羅列で実験していることから、勉強に関わる記憶とは関連がないとも言われています。
通常勉強するときに覚える記憶というのは、無意味な単語の羅列ではなく、意味がある単語、関連がある語句なはずです。
そのため、エビングハウスの忘却曲線は影響を受けてこないということです。
もし塾が覚え方に無意味な単語の羅列に関するエビングハウスの忘却曲線を活用しているとすれば、その塾は無意味な単語の羅列として覚えさせているともとらえられるということです。
まぁ実際無意味な単語として覚えさせている塾はかなり多いのですが…
そして無意味な単語の羅列を用いた実験であることから、実際の生活に関わる記憶においては関係がないとも言われています。
例えば、あなたは
「明日はカレーにするから、明日の帰りに人参、ジャガイモ、玉ねぎ、肉、ルーを買ってきて。」
と言われて、
「明日になると節約率が26%だから、20分後の節約率が58%のうちに覚えなおさないと!」
と考えますか?
この場合、買ってくるものはカレーの材料なので、明日がカレーということさえ覚えておければ買い物には困らないはずですよね?
そしてこのカレーという言葉も無意味な言葉ではありません。
経験から自分がいつも食べているカレーというものを知っています。
そのため、20分後にもう一度覚えなおす必要も、明日もう一度覚えなおす必要もなく、基本的には一発で記憶されるので、再記憶の必要がないのです。
そして再記憶の必要がなければ節約率も関係ありません。
覚えなおす必要がないということは、100%節約できるということになってしまうのです。
このように、実際の世界で使われる記憶は大体生活に関連している記憶のため、エビングハウスの忘却曲線には単純に当てはめることができないのです。
塾業界はエビングハウスの忘却曲線をどう解釈した?
最初に言い出した人に悪意があったのか、解釈を間違えたのかまではわかりませんが、塾業界ではこのように解釈されています。
「1日後の節約率が26%という事は、26%分は覚えていられたということ。逆に言えば、一日後には74%忘れてしまっているということ。」
これを塾に都合がいいように解釈すると以下のようになります。
「家に帰ってすぐ、もしくは翌日できるだけ早い時間に復習すれば、復習にかかる時間が少なくて済みます。うちの塾の宿題は1日単位で決まっているから、迷わずにすぐに復習できます。」
「時間が経つとどんどん忘れていくから、定期的に復習の機会を設けることで、記憶を定着させられます。だからうちの塾のカリキュラムは安心です。」
「繰り返せば繰り返すほど記憶は定着しやすくなります。うちの塾はできるまで何度も繰り返して覚えさせています。」
もちろんエビングハウス自身はそんな事言ってません。
塾業界が勝手に都合のいいように解釈して、塾のシステムの裏付けに使っただけなのです。
塾業界の説明をどう解釈したらいい?
塾自体もわかっておらず、慣習的に使っている部分もあるので絶対ではありませんが、様々な塾のシステムと実情を見て来たところ、概ね以下のように解釈できると考えています。
復習しやすいようになっています。
⇒ システム通り復習できない子は放っておきます。
思い出しやすいようなカリキュラムになっています。
⇒ 覚えることが多いから繰り返しています。
今できなくても繰り返すカリキュラムになっています。
⇒ 途中参入の子を大切にするので、既に通っている子の理解度には合わせていません。
できるまで何度でも教えます。何度でも繰り返せるシステムになっています。
⇒ 何度も教えないと理解できないような、無意味な単語の羅列として教えています。
そんな馬鹿な!?
と思うかも知れませんが、これが実情なのです。
多くの塾はいかに効率的に覚え、点を稼ぐかに特化した教育法を編み出しており、結果的に上記のような実情を生み出しているのです。
そのため、そのシステムにしっかり乗れていれば伸びていきますが、乗れていない子には挽回の余地がないのです。
エビングハウスの忘却曲線は信用できない?
ではエビングハウスの忘却曲線は完全に嘘なのかというとそんな事もありません。
脳科学について研究してきたのはエビングハウスだけではありません。
エビングハウスの忘却曲線が有名になっただけで、それ以外にも様々な研究データがあります。
ただ、やはりどの研究もエビングハウスと同様、不確定要素を取り除く事が難しく、あくまで一般論に落ち着いてしまいます。
記憶量についても同様です。
塾業界はエビングハウスの忘却曲線でこじつけようとしていますが、全てが間違っている訳ではありません。
復習を早めにする方がいいのは確かなのです。
そしてもう一つ。
皮肉なことに、ほとんどの塾で教えている勉強がエビングハウスのような実験と同様になっている事も確かなのです。
そう、無意味な単語の羅列を暗記しているだけの勉強の現状です。
英単語や漢字を書きまくって覚える、単語カードで覚える。
問題集を何度も解いて覚える。
いずれも意味をよくわからなくてもとりあえず頭に叩き込もうとする勉強法です。
これらはエビングハウスの行った無意味な単語の羅列を覚えるのと同じじゃないですか?
このような勉強をしていると、必然的にエビングハウスの実験結果に近い再現が出来てしまうということです。
勉強は無意味なものを覚える作業ではない!
エビングハウスの忘却曲線を否定するつもりはありませんが、エビングハウスの忘却曲線を曲解して用いているシステマチックな塾の教育法には疑問を感じえません。
人の記憶はそんな単純なものではないからです。
AIが発展してどんどん効率化されていますが、結局のところ最後に関わるのは「人」なのです。
どれだけ技術が発展しても、「人」が「人」を育てるという根本は変わらないのです。
AIを育てているのも人ですから。
個性を持たない「システム」が、個性を持つ「人」全てを同時かつ平等に何とかすることなどできないのです。
そして勉強は無意味な単語の羅列を覚えることではありません。
無意味な単語の羅列を覚えるような勉強ではあってはならないのです。
何も面白くないじゃないですか。
感情が動くから記憶に残る。
感情がないものを記憶するだけなんてUSBメモリーやSDカードと一緒です。
勉強のやり方も生活のリズムも、趣味も興味も人それぞれ。
結局は今の勉強法が自分に合った勉強方法かどうか、それに尽きるのです。
今のあなたのお子様の勉強方法、本当にこのままで大丈夫ですか?
塾業界でまことしやかに言われていることに振り回されていませんか?
あなたのお子様に合った勉強方法かどうか、ファイでは診断することができます。
成績が全然伸びない方は是非ご利用下さい。