一日中親がついて教えても伸びない現実
コロナ下で親がついて一日中勉強していた子は結構います。
一見圧倒的に有利に思えますが、実は伸びていない子が結構多いのです。
ファイにもそのような相談が前年の3倍も寄せられました。
新型コロナでリモートワークが増え、親がついて教える時間が増えたことによる影響でしょう。
それだけ多くの時間を確保できているはずなのに伸びていない。
いかに多くの子がやっても伸びない現状にさらされているかがよくわかりますね。
なぜ親がついて教えても伸びないのでしょうか。
今回は問い合わせが多かったサピックスを例にあげてお話しますが、どこの塾に通っていても同じです。
サピックスだからこうなったわけではありません。
今回は心理学的な側面からお話しましょう。
認知的不協和
あなたは自分が「これだ!」と思った答えでも、周りが違うと言ったら、自分自分が間違ってるかも…って思ってしまった経験ありませんか?
これは認知的不協和と呼ばれる現象で、矛盾した2つの答え(自分が正しいと思う答えと、周りが正しいという答え)があるときに生まれる不快感や不安の事を言います。
フェスティンガーという人が提唱したもので、彼はこのような実験を行いました。
まずつまらない単純作業を仕事として与えます。
次にその単純作業がいかに楽しいものかを伝える、という仕事を与えます。
これをいくつかのグループに分けて行い、報酬はグループごとに変えました。
要するに、超つまらない単純作業の仕事、例えば10kgのお米が何粒あるか、手で1粒ずつ数えていくとか、お経をひたすら聞くとか、そういう生産性のない単純な仕事を任せ、その仕事内容についてとても楽しそうに語らせる、ということです。
さて、楽しそうに仕事を伝えたのは、報酬が高いグループと低いグループのどちらでしょう?
心理的矛盾は思い込みで解決される
結果、報酬が低かったグループが一番楽しそうに仕事を伝えたそうです。
例えるなら、米粒全部を数えて100円の報酬としたグループと、100万円としたグループでは、100円としたグループの方が楽しそうに語ったということです。
フェスティンガーはこれをこう解釈しました。
これはつまらない仕事を楽しい仕事だと説明しなくてはならない矛盾した状況、そして報酬の少なさから、「本当は楽しい、意義のある仕事に違いない。」と思い込むようになり、不協和を解消しようとしている。
この矛盾した心理を抱えた時の不快感を認知的不協和と言います。
これだとちょっとわかりにくいので、別の例で紹介しましょう。
イソップ寓話「すっぱいぶどう」
よくイソップ寓話で例えられるのが、「すっぱい葡萄(ぶどう)」というお話です。
キツネが,たわわに実ったおいしそうなぶどうを見つました。
「すっぱいぶどう」 ー イソップ寓話
食べようとして跳び上がりますが、ぶどうは全て高い所にあり、届きません。
何度跳んでも届かず、キツネは怒りと悔しさで、
「どうせこんなぶどうは,すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか。」
と捨て台詞を残して去っていきました。
というものです。
この食べたいのに食べられらないという状態が認知的不協和を起こし、怒りと悔しさというのが認知的不協和が起きている時の精神的状態を表しています。
この認知的不協和が起きた状態になると、どちらか一方の心理をなんかしらの理由をこじつけて、無理やり押し殺してしまおうとします。
それが「どうせすっぱくて不味いだろう。」という捨て台詞です。
実際にすっぱくてまずいかどうかはわかりません。
でも「まずいんだから取らなくていい」と考える事により、精神的な負担を和らげているのです。
伸びる子と伸びない子の差
この認知的不協和は、誰にでもよく起こりうる事です。
そしてこの認知的不協和をどのように解消しようとするかが、成績において伸びるかどうかの差となります。
例えばどうしても解けない問題に当たった時。
放っておけば、
「どうせみんなやってないからいいや。」
「どうせテストに出ないし。」
「バカだし、こんな問題出来るわけない。」
このように解けない、解かない理由を考え出します。
親自ら解けない理由をこじつけているケースもあります。
今回学習法診断を行ったケースも親でした。
「ぼーっとしてるから解けないんでしょ!」
「今週末試験なのに何やってるの!」
「勉強時間が足りないから伸びないのよ!」
このように、量が少ないから解けない、テストに出ないところを勉強してるから解けない、というように考えることによって、認知的不協和を解消してしまいます。
そう、伸びない原因はここにあるのです。
親も子も、認知的不協和を解消するために、伸びない理由を自分に都合よく解釈し、勝手に作り上げてしまっているのです。
伸びる子の解消法
伸びる子は違います。
解けるようにする事によって認知的不協和を解消しようとします。
先程のすっぱい葡萄で例えるなら、葡萄を取る事で解消するのです。
もちろん取れるまでの間はずーっと認知的不協和状態になるので、それは言葉で伝えられる以上に苦しく、もやもやします。
しかし、解決することで認知的不協和を解消できると、次も同じように解消しようとするのです。
これがオンライン授業で何も教えなくても勝手に勉強するようになるカラクリの一つでもあります。
あなたは子どもが解けない問題に当たった時、どのような声かけをしていますか?
「勉強しなさい。」
「やってないからできないんでしょ。」
「勉強しないといい学校に行けないわよ。」
これはすっぱい葡萄で例えると、
「早く葡萄を取りなさい。」
「取ろうとしないからできないんでしょ。」
「頑張らないと美味しい葡萄が食べられないわよ。」
と声かけているのと同じですよね?
果たしてこれでキツネは葡萄を手に入れられるでしょうか?
もう一度よく考えてみましょう。
目の前に葡萄を取りたいけど取れないキツネがいます。
あなたはキツネに葡萄を与えたいと考えています。
どうしますか?
伸びる子の親はこうしています。
まずキツネに寄り添います。
キツネと一緒に取る方法を考えます。
葡萄を取る喜びを経験させます。
冒頭のお母さんも娘さんも、決して勉強していない訳ではありませんでした。
教材を見ると、相当な時間一緒に頑張っていたのがよくわかります。
しかし、親も子も「これは自分には解けない」と決めつけ、実施する問題を簡単なものに絞っていました。
確かに簡単なものも解けずに成績が取れていません。
しかし台の上に乗って、初めて全体像が見えることもあるのです。
基本ができるから発展ができるようになるとは限らないのです。
また、診断中の親子の会話から、子どもに期待してはいるものの、できない理由を探してかばう母親の様子を見て取れました。
期待するのがいけないわけではなく、期待を裏切られたことに対する解消法がおかしいのです。
できない理由なんて親がいくら探したところで成績の足しにはなりません。
そんなのは本人が考えることです。
点の取り方も、勉強の仕方も、何を勉強するかも、本人が考えることです。
親が先回りして決めつけてしまうことで、子どもの思考に制限がかかってしまうから伸びなくなるのです。
もちろん子どもに考えさせれば失敗ばかりになります。
そんな失敗の中にも、本人が気づいていない成功やプロセスがあるものです。
それを見つけて積み上げるサポートをしていく。
ひとつずつ積みあがれば、子どもは諦めるのではなく、どうやったら取れるようになるのかを考えるようになります。
伸びる子の親は、こうして一歩前進したことを認め、問題解決していくことの喜びを教えているのです。
逆に点を取らせたいあまり、子どもの状態を決めつけて勉強させることは、できない言い訳をする方法を教えているのと変わりがないのです。
どこがうまくいっているのか、伸びているのか見つけられないなら、ファイが一緒に考えてサポートいたします。
どういう声かけをしたらいいか、どこを認めてあげるといいか、それが見えてくるだけで、子どもは葡萄を取ることを諦めなくなります。
難しいから解けないとか、わからないとか、言い訳をしなくなるんですね。
すると問題を解く時の積極性が高くなっていきますから、時間数を稼がなくても質の高い勉強で成績を伸ばせるようになるのです。
ファイでは月1万円で答案や成績表をどう解釈すれば伸ばせるのか、アドバイスしています。
答案や成績表を見ても、良い部分が見つけられない方はご連絡下さい。
それが見えるようになるだけでも、成績は上がりやすくなるものです。
「娘は現在小5で、サピックスに通っています。サピックスには小3から通っており、勉強は私が張り付いて見ています。専業主婦なので娘が学校から帰ってきたときにはおり、このコロナ下でも一日中一緒に勉強していました。しかしそれでも成績が伸びませんでした。一応御三家を目指していますが、遠く及びません。もう伸びる見込みがないのでしょうか。」
サピックス 小5 母