女の子に優しい子
とある中学生のクラスで授業をしていた時の話。ある女の子が胸を押さえたまま,すーっと机に突っ伏してしまいました。最初は眠いか気分でも悪いのかと思い,声をかけに行くと,呼吸をしてない…?と思ったら次の瞬間,胸を押さえて小刻みにはっはっ…と苦しそうに呼吸を始めました。
まずい!過呼吸か!?
と思い,
「誰かビニール袋!」
と言うと,間髪いれずに
「はい,先生!」
と,丸まったビニール袋が飛んで来ました。もっとも過呼吸は放置しても死に到ることは珍しいのですが, まぁ早く処置してあげるに越したことはありません。
ところで,このビニール袋,誰が投げたのでしょう?
実は,過呼吸になった女の子と同じ学校の男の子だったのです。この女の子は学校でも1度過呼吸になった事があるらしく,その時に対処の方法を学校の先生がみんなに話していたのでしょう。この男の子はそれを聞いて,
「塾も同じだし,もし何かあった時のために…」
と,それ以来,学校のかばんにも塾のかばんにも,すぐ取り出せるようにビニール袋を1つ入れていたようです。
もちろんこれはこれでとてもすごいことなのですが,本当にすごいのはここから。
この男の子,前々から学校で「この女の子のことを好きなんだろう」って冷やかしを受けていたんです。普通,そんな事されてたらこの場面で何もできないと思いませんか?「かっこつけてるー!」とか冷やかされるのがオチでしょうからね。実際この日も周りから冷やかされたんですよ。
「お前,○○さんの事,好きなんだろー」
って。
「ち,違うよ。たまたまさっきコンビにで買い物したから持ってただけだよ!」
って照れを隠しながら弁解していましたが,他の子たちもキャーキャーいって冷やかし出したのです。
ところがここで,もう一人の女の子が登場してビシッと言い放ちました。
「やめなよそういうの。K君はSちゃんがもしもの時のためにってずっと袋を持ってたんだよ。それの何がおかしいの?」
一瞬静まり返った次の瞬間,Kを褒め称える声と,Sを心配する声で教室があふれました。この女の子はK君がSさんのために袋を常に持ち歩いている事を知っていたのですね。
今回は運がよかっただけかもしれません。たまたまハッキリ言ってくれる子がいたから救われたとも言えます。しかしながら,今回のK君のように周りの視線を気にすることない本当に優しい子は,やっぱり誰かが見てくれているものなんだと思います。
そんなの誰も見てくれない,という声が聞こえてきそうですが,それならばあなたのお子様を,そういう優しさに気づいてあげられる人にしてあげればいいじゃないですか。直接言えなくても,こういう小さな事の積み重ねで,今回のように防げることもあるわけです。最近の子,なかなかバカにできないですよ。いいものはいい,悪いものは悪いとはっきりいう子が意外と増えてます。大人社会の陰湿ないじめよりも全然健全な関係を築いています。イジメの原因は,子供の優しさを認めてあげる余裕がなくなっている大人たちにあるのかも知れませんね。
≪後日談≫
K君は相変わらず「たまたまだよ」と言いながら袋を持ち歩いています。そしてK君同様に,袋を持ち歩く子が増えました。この機会に人体のしくみや止血,応急処置の授業をしたのですが,ハンカチを持ってくる子が増えました。止血に便利なんですよね,あれ。
また,K君は試験で消しゴムを忘れたという子に,すぐさま自分の消しゴムを半分に折ってあげたそうです。これは私の話の受け売り(笑)そんなK君のファンが,少なくとも3人現れました。私に恋の悩みを相談してきたので少なくとも3人は確実。おそらくもっといたでしょうね。機転の利いたずば抜けた優しさと,冷やかしを相手にしない大人な対応。同じ男としてかっこいいなーと思いました。ここまでいくと,いじめる対象ではなくなるんですね。その環境が功を成したのか,勉強を教えてくれる子が増え,あっという間に成績が伸び,勉強を教える側になり,難関とまでは行きませんでしたが,十分上位校といえる進学校へ合格していきました。
はじめまして。おはようございます。
素敵なお話ですね。
いじめられている子を見ると放っておくことはできません。同時にいじめている子を見ると、満たされない思いがあるのではないかと哀れに思ってしまいます。