オオカミと七匹の子ヤギの謎
オオカミと七匹の子ヤギというグリム童話の中で、
「オオカミはお店に行って大きな石灰のかたまりを買い,これを食べて声を柔らかくしました。」
という記述があります。
これについて塾生から
という質問が出て、それをネタに授業をしたのでちょっとご紹介。
先に結論を言っておきますが、チョークを食べても声は綺麗になりません。
絶対に真似しないように。
また、赤ずきんでオオカミが声色を変えるシーンが登場してきますが、あれはチョークではなく、作り声となっています。
オオカミがチョークを食べたのは、オオカミと七匹の子ヤギという本です。

チョークの記載について
グリム童話はドイツのグリム兄弟(ヤーコプとヴィルヘルム)がかき集めた昔話で、ドイツ語で書かれています。
Da ging der Wolf fort zu einem Krämer und kaufte sich ein großes Stück Kreide; er aß es auf und machte damit seine Stimme fein.
この部分が該当する場所で、”Kreide”が「チョーク」を意味します。
英語の”choke”に「首を絞める」という意味があり、首を絞めれば高い声が出るという所から、チョークは誤訳説がありましたが、ドイツ語のグリム童話にも「チョーク」が出ているので誤訳説ではなさそうですね。
ちなみに、
- choke「首を絞める」
- chalk「チョーク、白墨」
でスペルも異なります。
このドイツ語を日本語に翻訳したものにはいくつかパターンがあり、「チョーク」「白墨」「石灰」と訳されているものがあります。
いずれも一般的に想像される白い個体のことを指します。
材質は炭酸カルシウムですね。
よってドイツ語の元の文書から、すでに「チョークを食べて声を柔らかくした」となっていた、ということになります。
チョークを食べるとどうなる?
実際にあんなものを食べたら、声が柔らかくなるどころか、かえってイガイガしそうなものですが、チョークを食べたらどうなるのでしょうか。
実際に食べられるのか、というと一応食べられます。
炭酸カルシウムというのは貝殻や卵の殻の成分なので、常識的な範囲内であれば、食べても害があるわけではありません。
石灰岩、石灰石も炭酸カルシウムが主成分です。
最も食べても死にはしない、というだけなので、食べないに越したことはありません。
また、石灰の粉(粉塵)については水に溶けず、肺に入ると長期間残りますので、何かしらの悪影響を及ぼす可能性があります。
吸い込むのはやめた方がいいでしょう。
なぜ「チョークを食べる」になった?
ドイツの民間療法、要するにおばあちゃんの知恵袋的な治療として、喉のイガイガを直すならカルシウムを摂取するのがいいというものがあったらしく、身近にあるカルシウムということで、チョークが用いられていた時代があったようです。
もちろん今はそんな治療法ありません。
炭酸カルシウムは中学受験でも高校受験でも出てくる物質なので、印象付けに使えるでしょう。
なお、炭酸カルシウムを水に溶かしたら石灰水になると思っている子が多いのですが、炭酸カルシウムは水に溶けません。
石灰水に二酸化炭素を吹き込んだ時に発生する白い濁りの正体が炭酸カルシウムです。
石灰水は、酸化カルシウムを水に溶かすことでできる、水酸化カルシウム水溶液のことです。
この辺りは石灰に種類があることを知らなければわからず、ただテキストを読んでいるだけでは理解できないところ。
できれば実際に試して見て欲しいところです。
もし丸暗記に疲れたら、ファイで一緒に本質的なところから学んでいきましょう(^^)/
「チョークを食べると本当に声が柔らかくなるの?」